電車の運転士になるには?の誤解を解く

はじめまして、中小企業の鉄道員です。

 

今も昔も、一定数の方が電車の運転士を志すのではないでしょうか。するとその成り方という情報は仕入れておきたいもの。しかし巷には誤解が溢れ過ぎていると感じ、正しい情報を伝えるべくここに書き記す所存です。

特に、

□運転士になるには駅員、車掌をそれぞれ数年経験する必要がある

□新幹線の運転士になるには在来線の運転士を経験する必要がある

□中小企業では大手に委託して運転士を養成する

は、いずれもよくある誤解です。この3つは間違いです。そういう会社があるのは確かですが、それが全てではありません。「え、じゃあいきなり運転士になれるの?」。はい、なれます。少なくとも制度上はなれます。

これらについて1つずつ見ていきます。

 

□運転士になるには駅員、車掌をそれぞれ数年経験する必要がある

これは本当に多い誤解です。確かに現在大手はこの流れが多いようですが、これは各社の独自のルールに過ぎず、それを強制する法令は一切ありません。中小私鉄においては取り敢えず運転免許を取ってもらって、駅でも運転でもマルチに活躍してくれ!という流れも存在します。そもそもワンマン化が進んだ線区などでは駅員の需要より運転士の需要の方が多かったりする訳です。運転士の高齢化は著しいため、世代交代の意味でも「運転士候補生募集」なんてよく見かけますよね。取り敢えず運転免許を持った人材が欲しい、という需要もあるわけです。

 

□新幹線の運転士になるには在来線の運転士を経験する必要がある

これも誤った情報が溢れてます。在来線の運転士をしないと新幹線の運転士になれないという法令はありません。確かに在来線→新幹線のルートは存在しますが、それはその会社が独自に設けているルートに過ぎません。実際、私の上司で新幹線運転士の免許のみ保有している人がいました。なお新幹線の運転免許は在来線の免許を含んだりはしません。運転できるのは新幹線だけということになります。在来線は運転しちゃダメです。

同様に、蒸気機関車の免許を取るためにまずは電車の免許を、という法律もありません。が、蒸気機関車の運転士は運転経験のある人の中から選抜される形式が多いようです。このため法律的にはダイレクトに蒸気機関車の免許を取れるが、それを実行している会社はあるのか知らない、というのが正確な言い回しです。

 

□中小企業では大手に委託して運転士を養成する

確かにこの方法で免許を取得する中小私鉄は存在しますが、全ての会社がこの方法な訳ではありません。この誤解は「じゃあ他の中小私鉄ではどうやって免許を取るの?」が分からないから広まっているのではないでしょうか。

ところで、自動車の運転免許の取り方を知っている人は多いのではないでしょうか。教習所に通って取ります。正解です。しかしそれ以外にも方法があります。各都道府県の運転免許センター的な場所で運転してみせてOKを貰うことです。俗に一発試験などと呼ばれます。練習の有無や過程は一切関係なく、とにかくその日に完璧な運転が出来たら免許を貰えるという訳です。

これは鉄道でも全く同じ構造です。つまり、大手の鉄道事業者は教習所を持っています。そして中小私鉄は教習所が無いので一発試験を受けます。一部の中小私鉄は大手の教習所に入れます。

この一発試験のうち多分1番気になるのは技能試験かと思うのでそれについてザックリ書きます。自動車の運転免許は、警察の用意した車両を運転する様子を警察に見せます。一方で鉄道の場合、各鉄道事業者が用意した車両を運転する様子を運輸局員に見せます。何月何日と決められた日に運輸局員が自分の会社に来ます。そして時間通り走れるかとか、速度計を隠して何キロか当てるとか、色々ありますがそれをチェックされます。試験内容はかなり細かくなるので割愛します。時間があったら別の記事にします。

さて、教習所にしても一発試験にしても、自動車と違って内輪が関与することになります。すると不正は無いのか?という疑念が生まれます。ハッキリ言って可能性はゼロではないです。特に大手の教習所では、試験官も自社社員な訳です。すると下駄を履かせる可能性は否定できません。内部統制がどのように構築されているのでしょうね。私は知りません。

中小私鉄では運輸局員を招いて試験しますので不正という事は難しいでしょう。一応、車両を魔改造して時間通り走れるように改造するみたいな不正は原理的には可能です。まあ無いでしょうね。そもそも試験自体が練習通り出来れば合格できる試験になっており、抜き打ち要素はほぼ無いです。(…といってナメてると突如想定していなかった内容が盛り込まれて、受験者本人だけではなく会社ごと「マジかよ」と焦らされます(実体験)。)

 

取り敢えずざっとこんな所です。また何か思いついたら加筆します。